108回目のクリスタルチャペルコンサートは「イタリアのラメント」と題して、イタリアの初期バロック作品をお聴き頂きます。 17世紀のヨーロッパにおいて、神を頂点とするルネサンスの音楽観は、人間中心の主張の強いバロック音楽へと移り変わります。 フィレンツェのジョヴァンニ・デ・バルディ伯爵邸に集まった貴族や音楽家、詩人、哲学者といった知識階級の集まりは、音楽を通じていかに正しく言葉の意味と心情を伝えるのかを実践していき、彼らは"カメラータ"と呼ばれ、バロック音楽の幕開けに 大きく貢献したのでした。 歌曲に於いては、ルネサンスのポリフォニ一(多声音楽)に代わり、伴奏付き単旋律であるモノディーという様式が生まれました。ギリシャ悲劇に範を取り、言葉の抑揚と意味、そして感情の表出を重んじる作品が生み出されたのです。そしてこれらの新音楽は、文芸復興の国イタリアからヨーロッパ中に新しい音楽として発信されて行きました。 カッチーニ はカメラータの中心メンバーであり、第一歌曲集 "新音楽 Le NuoveMusiche" は1602年(フィレンツェ暦1601年)に出版されています。初期バロック歌曲集の代表とされるこの曲集には、まさに"ニューミュージック"というタイトルがふさわしいものであるといえるでしょう。 女流作曲家ストロッツィの「私の涙」には豊かな創造性と共に、功妙且つ自由な知的遊戯が交錯しています。大胆な和声の響きからは、まさにバロックの語源とされる「歪な真珠」がイメージされるのです。 サンチェスの曲では4つの下降音型を延々と繰り返す伴奏の上にテキストを高揚させる旋律が次々と紡ぎ出されます。まさにカメラータの理念を実践している作品と言えるでしょう。 本日のリュートソロの作曲者カプスベルガーはドイツ人であるのですがイタリアで活躍したリュート奏者であり、その作品はイタリア初期バロックを代表するリュート音楽とされています。ルネサンスにおける器楽曲は声楽曲よりの発展物ともいえるのですが、トッカータに代表される17世紀初頭のリュート作品は、後の純粋な器楽曲の発展へとつながっていきました。 |
●平井満美子/ソプラノ
神戸女学院大学音楽学部声楽科卒業。卒業後、古楽の演奏に興味を移し研究を始め、E.カークビー、J.キャッシュ、C.ボットらに学ぶ。現在、ルネサンスよりバロックを中心に、イギリス、フランス、イタリア、スペイン、ドイツの幅広いレパートリーを持つ、数少ない古楽の歌い手として活動している。多くのコンサートと録音を行い、その演奏は新聞、音楽誌等にて常に高く評価されている。現在までに発売された佐野健二とのデュオCD全ては雑誌「レコード芸術」「音楽現代」等の推薦盤に選ばれ、デュオリサイタルに対しては「大阪文化祭本賞」を受賞している。アーリーミュージックカンパニー主宰。NHK文化センター講師。
●佐野健二/ルネサンスリュート、リウトアテオルバート
英国・ギルドホール音楽院首席卒業。ギターを岡本一郎、H.クワイン、B.オー、J.ブリームの各氏、リュートをA.ルーリー、N.ノース、J.リンドベルイの各氏に師事。演奏活動に対し、「ジョン・クリフォード・ペティカン賞」「ロンドン芸術協会選出1978年度新人音楽家」「大阪文化祭奨励賞」「音楽クリティック・クラブ新人賞」「神戸灘ライオンズクラブ音楽賞」「大阪文化祭賞」(二回)を受ける。現在、ルネサンス、バロック期の撥弦楽器を中心に、独奏・伴奏・通奏低音奏者として演奏、録音活動を行っているが、そのレパートリーは民族音楽より現代音楽にまで及んでいる。現在、相愛大学非常勤講師、アーリーミュージックカンパニー主宰。2007年EMCレコード設立。