佐野健二 のクリスタルチャペルコンサート解説


1996年度プログラム解説
≪No.7≫1月17日(水) 古きよきイギリスの愛の歌を集めて
≪No.8≫3月13日(水) イタリアルネサンスのリュート音楽
≪No.9≫5月08日(水)ドイツのバロックと古典
≪No.10≫7月10日(水) 優愁のダウランド
≪No.11≫9月24日(火) エリザベス朝のリュート音楽
≪No.12≫11月20日(水)イタリアの新音楽

1997年度 プログラム解説
≪No.13≫1月22日 ダウランドの生涯
≪No.14≫3月19日 ダウランド「第一歌曲集1597」
≪No.15≫5月21日 ダウランド「巡礼の慰め1612」
≪No.16≫7月9日  フランスバロックのリュート音楽
≪No.17≫9月24日 古きよきイギリスの愛の歌
≪No.18≫11月26日 イタリバロックのリュート音楽

1998年度 プログラム解説
≪No.19≫1月28日 ダウランド&ヴァイス
≪No.20≫3月18日 ダウランドからパーセルヘ
≪No.21≫6月10日 イングリッシュ・バラード「グリーンスリーブス」
≪No.22≫9月1日 イタリア、フランスのバロック
≪No.23≫11月19日 フランスバロックの宮廷音楽
≪No.24≫12月17日 夢次元の調べ「キャロルを集めて」


No.7 古きよきイギリスの愛の歌を集めて//演奏曲目

 昨年の1月から始めました「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も皆様方のおかげをもちまして、1996年も隔月奇数月に続けて行く事となりました。今年もよろしくお願い申し上げます。さて、第7夜は「古きよきイギリスのはやり歌」と題し、ルネサンス時代のイギリスのフォークソングを歌とリュートの調べでお聴き下さい。
 16世紀のイギリスは経済、文化、芸術と、総てに花開いた黄金時代であり、音楽も宮廷人から庶民まで、総ての階級の人々に愛されておりました。音楽の種類も様々なのですが、その中でもはやり歌は、最も生活に密着した音楽で、人々はうれしいにつけ、悲しいにつけ、自らの気持ちを楽の音に託しました。そして、そのはやり歌たちは、その旋律の心地よさ、親しみやすさ故に、世界中に広まってゆきました。リュートは楽器の王様(女王様?)としてルネサンス時代のヨーロッパではたいそう好まれました。中近東に源を発するこの楽器は、エキゾチックな容姿と、繊細かつ多様な響きで人々の心をとらえたのです。そして当然の成り行きとして、16世紀のイギリスでは、はやり歌とリュートが結び付きました。人々は、はやり歌をリュート伴奏で歌い、はやり歌の旋律を元にたくさんのリュートソロを作り出したのです。今宵は、国境と時代を超えて、今なお世界中の人々に愛されるイングリッシュ・フォークソングの魅力をさぐってみたいと思います。
 最後になりましたが、今日はあの大震災からちょうど一年目。震災後、世の中が深い悲しみに覆われている時、音楽なんかしていていいのだろうか、と考えました。しかし、演奏を聴いてくださった被災者の方から、こんな時だからこそ、がんばってよい音楽をお願いします。とのお言葉をいただき、人と音楽の深い結び付きを感じました。一杯の水と同様に、音楽が人には必要な事、うれしく思いました。これからも音楽の楽しさ、すばらしさを皆様と分かち合うため、演奏して参ります。よろしくおつきあいの程、お願い申し上げます。

No.8 イタリアルネサンスのリュート音楽//演奏曲目

 昨年の1月から隔月奇数月に始めました「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も皆様方のおかげをもちましてはや8回目。今夜は「イタリアのルネサンス」と題し、ルネサンス時代のイタリア・リュート音楽をソロ、デュエット、トリオでお聴き下さい。デュエットの相方には昨年に引き続き、世界的に活躍している現代の吟遊詩人“つのだたかし”さんを迎えます。そして、トリオには若手のリュート奏者“榎かおり”さんに加わってもらいます。
 文芸復興の地であり、ガリレイ、ダ・ビンチ、ミケランジェロらの大天才を生み出した国イタリア。リュート音楽についても、イタリア・ルネサンスは宝庫であり、それらは他の芸術文化同様ヨーロッパ全土に広がり、多大な影響を与えました。今日演奏するダルツァ、キャピローラ、ダ・ミラノの作品は数世紀にわたるリュート音楽の繁栄の始まりであり、最も重要なレパートリーでもあります。私たちは、完成されたこれらのイタリアのリュート音楽に、必然的な自然さ、そして絶対的な小宇宙を見い出す事が出来るのです。
 第一部の独奏には典型的なイタリア・ルネサンスタイプのリュートを使います。6コース/11弦で、音の低い方の3コースはオクターブ一対の弦が張ってあり、軽やかな響きを特徴とします。G.パコローニのリュート三重奏曲は、ソプラノリュート(c-lute)、テナーリュート(G-lute)、そしてテナーより一音低いリュート(F-lute)の3種を使い、独自の世界を作り出しています。  それでは今宵、満天の夜空にきらめく星のごとく、リュートから放たれた音たちが、このクリスタル・チャペルに舞う様をお楽しみ下さい。

No.9 ドイツのバロックと古典//演奏曲目

 昨年の1月から隔月奇数月に始めました「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も、はや9回目。今夜は「ドイツのバロックと古典」と題し、第一部はバロックリュート、第二部には19世紀ギターを、テノールの歌声と共にお楽しみいただきたいと思います。
 ヴァイスはバロックリュートの名手であり、バッハがリュートに関心を寄せた要因のひとつには、ヴァイスの存在があったからだと言われています。リュートを知り尽くした彼の作品は後期バロック、すなわちリュート音楽の最後をしめくくるにふさわしい響きを我々に残してくれました。テレマンの「通奏低音の楽しみ」は伴奏法の習得を目的とした歌曲集。通奏低音とは伴奏に低音譜のみ与えられた即興的伴奏法で、バロック時代にはリュート、チェンバロ、オルガン等に幅広く使われていました。アンナ・マグダレーナ・バッハのためのクラヴィーア小曲集は、大バッハが家族のために書いた作品集。ヴァイスの組曲の後には、バロック時代の二大巨匠の生活に密着した作品をお楽しみください。
 18世紀半ばには、数世紀続いたリュートの繁栄は幕を降ろします。そして同時期、いままでどちらかというと日陰にいたギターが注目されはじめました。ギターはバロック時代までの撥弦楽器の常であった複弦を捨て、6弦単弦の身軽な楽器に生まれ変わったのです。(ちなみにバロックリュートには24本の弦が張ってあります。)
 19世紀はギター音楽の黄金時代と呼ばれ、多くの優れた作曲家、演奏家、製作家が輩出されました。メルツはハンガリーのギタリスト兼作曲家ですが、ドイツで活躍し、作品の多くはドイツで出版されています。そして、今宵演奏されるモーツァルト、ハイドン、ベートーヴェン、シューベルトの作品は歌とピアノのために作曲されましたが、当時からギター伴奏の楽譜も数多く出版されており、小規模な社交会等の響きの良いサロンでギターはたいそう愛好されたのでした。今日使用する楽器はフランスの名工ラコートが19世紀初頭に製作したギターのコピーです。
 それでは今宵、このクリスタル・チャペルでドイツのバロックと古典によるひとときを楽しんで頂ければ幸いです。
 

No.10 優愁のダウランド//演奏曲目

 昨年の1月から隔月奇数月に始めました「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も、10回目になりました。今夜は「憂愁のダウランド」と題し、ルネサンスリュートとオルファリオンのソロ、そしてリュート歌曲の数々をお聴き下さい。
 ジョン・ダウランドは、自他ともに当時第一人者とされるリュート奏者だったのですが、不遇のリュート奏者ともいわれています。彼は最高のリュート奏者とされながらも、宗教上の理由からエリザベス女王付奏者になれない失望感を胸に抱きつつ、ヨーロッパ各地を巡り歩きました。そして晩年、イギリスにもどった彼は、半ば忘れ去られた存在でこの世を去りました。ダウランドの音楽の象徴とされるメランコリーは、このような彼の境遇ゆえといわれます。たしかにダウランドの作品名には、〈涙〉〈悲しみ〉〈泣く〉〈暗闇〉そして〈死〉といった絶望的でメランコリックな言葉が並んでいます。しかし、ダウランドは本当につらい人生を送っていたのでしょうか。絶望にさいなまれる人間は少しでも明るいものを望むものです。と考えた時、ダウランドは結構その人生を楽しんでいたのではないのでしょうか。根なし草のようなダウランドですが、いく先々では最高の音楽家として迎えられていたのですから。あまりに完成された彼の作品を見る時、ダウランドは自らのメランコリーを楽しんでいたのだと思えてきました。いずれにせよ、“ダウランドの憂愁”はヨーロッパで16世紀末の知識階級に流行った“メランコリー気質”とまさしくに同調していたのです。人々は世紀末特有の期待と不安の入り交じった世界でメランコリーに身をゆだねておりました。
 私たちも今、幸か不幸か世紀末を迎えています。今宵、つかの間のメランコリーをお楽しみ下さい。

No.11 エリザベス朝のリュート音楽//演奏曲目

 昨年の1月から隔月奇数月に始めましたクリスタル・チャペル・コンサート「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も、11回目になりました。今夜は、世界的リュート奏者のヤコブ・リンドベルイ氏を特別ゲスト、そしてイギリス歌曲の第一人者、平井満美子さんをゲストに迎えて「エリザベス朝のリュート音楽」の様々をお聴き下さい。
 エリザベス朝のイギリスは経済、文化、芸術と、総てに花開いた時代であり、音楽も宮廷人から庶民まで、総ての階級の人々に愛されておりました。宮廷はすぐれた音楽家を召し抱え、貴族たちは音楽を自らたしなみ、人々はうれしいにつけ、悲しいにつけ、歌い、楽器を奏でました。  ジョン・ダウランドに代表されるルネサンス後期イギリスのリュート作曲家たちの活躍は、リュート音楽の黄金時代を16世紀イギリスに築き上げました。ルネサンスリュートは楽器、音楽、共にエリザベス朝に完成されたのです。
 数世紀の時の流れを経て、今また新鮮に響くリュートとオルファリオン、そして心の様を歌と弦の音に託したリュート歌曲お楽しみ下さい。

No.12 イタリアの新音楽//演奏曲目

 昨年の1月から隔月奇数月に始めましたクリスタル・チャペル・コンサート「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も、12回目になりました。今回は「イタリアの新音楽」と題し、バロックの幕開けとも言える17世紀イタリアの音楽をお楽しみ下さい。
 17世紀、神を頂点とする均整のとれたルネサンスから人間中心のバロックへと世の中は移り変わり、音楽にも大胆な主張や新しい手法が生み出されます。文芸復興の国イタリアはバロック音楽に於いてもヨーロッパ中に多大な影響をあたえました。「新音楽 Le Nuove Musiche, Firenze 1601」はジュリオ・カッチーニの第一歌曲集のタイトルなのですが、新しい音楽を模索し、ギリシャ悲劇に範を求めたカメラータCamerata(貴族や音楽家、詩人、哲学者といった知識階級の集まり)の人々の理念が表わされています。いかにして言葉と楽音を結び付け、人々を説得するかを追及しています。器楽曲に於いては、声楽音楽より派生したルネサンスの器楽曲に対して、バロックの器楽曲は声楽よりはなれて、おのおのの楽器独自のスタイルを作り上げて行きました。
 今宵、歌とリコーダー、リュートによる、17世紀の「ニュー・ミュージック」をお楽しみ下さい。

  

No.13 ダウランドの生涯//演奏曲目

   一昨年の1月から隔月奇数月に始めました「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も、13回目になり、お陰様で3年目を迎える事が出来ました。今年はジョン・ダウランドの「第一リュート歌曲集」が出版されて400年目にあたります。数世紀を経た20世紀の今なお色あせる事なく人々に愛されるダウランド。本年度のシリーズ前期3回はルネサンスリュート音楽の最高峰ダウランドの作品を中心にリュートソロ、リュート歌曲、そして合唱と、様々の形でプログラミングして参ります。今夜は原点に戻り、ルネサンスリュート・リサイタルです。
 第一部はルネサンス時代のはやり歌からリュート独奏にセッティングされた「イギリスのバラード」の数々をダウランドの作品を中心に演奏します。ルネサンス時代のイギリスにはグリーンスリーブスに代表される魅力的な「はやり歌」が数多く生まれ、そのメロディックで普遍的な調べは今なお世界中の人々に愛されています。そしてそれらのメロディーは言葉を持たない器楽曲の母体ともなり、ハープシコードやリュートの為のイングリッシュ・バラード・セッティングが多数作り出されました。
 メランコリーな作風が16世紀末に流行った瞑想的風潮と完全に同調したジョン・ダウランドの音楽。彼は自他共に認める当時随一のリュート奏者とされながらも、エリザベス女王付奏者になれない失望感を胸に抱きつつ、ヨーロッパ各地を巡り歩きました。行く先々では最高のリュート奏者と迎えられながらも、イギリス宮廷付リュート奏者の職を願うダウランド。晩年、故国にもどったダウランドは、念願の国王付のリュート奏者に任命されるものの、時代は変わりイギリスでは若いリュート奏者が新しいタイプのリュートで活躍しており、ダウランドは半ば忘れ去られた存在でこの世を去りました。
第二部は「ジョン・ダウランドの生涯」と題し、憂いに満ちたダウランドの一生の軌跡を彼の作品を通してたどります。普通のリュートよりも一音低いFリュートのゆったりした響きでお楽しみ下さい。

No.14 ダウランド第一リュート歌曲集//演奏曲目

   「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も、14回目です。今年はジョン・ダウランドの「第一リュート歌曲集」が出版されてちょうど400年目。本年度のクリスタルチャペルシリーズ前期3回はルネサンスリュート音楽の最高峰ダウランドの作品をリュートソロ、リュート歌曲、そして合唱と、様々の形でプログラミングして参ります。本日は「第一リュート歌曲集」よりダウランドの初期の歌曲とバラードのリュートソロセッティングを中心にお聴き頂きます。
 イタリアのマドリガルより多大な影響を受けたイギリスのルネサンス声楽は、イングリッシュリュートソングという独自のジャンルを築きあげました。その代表とされるダウランドの「第一リュート歌曲集」は21曲のリュートソングと1曲のちょっと変わったリュートデュエットで構成されています。変わったリュートデュエットとは一台のリュートを二人で弾くという曲、二人の奏者は身を寄せあい腕をからめて演奏します。今日お聴き頂けないのは残念ですが、不純な動機に満ちたこの曲もさすがダウランド、洒落た小品に仕上がっています。第一歌曲集には、憂いに満ちた作曲家とされるダウランドの全作品からみると、軽やかな作品の割合が多く見られます。そしてこの歌曲集は当時としても大ヒットとなり、1597年に出版されて以来1603、1606、1608、1613年と再版を重ねました。
 今日、楽器はリュートとオルファリオンを使います。オルファリオンとは金属弦を張ったリュートの代替楽器、「第一歌曲集」のタイトルページには伴奏楽器としてこの二つの楽器が記されています。
 それでは今宵、歌とリュートとオルファリオンによる「ジョン・ダウランドの第一歌曲集」で400年前へのタイムスリップをお楽しみ下さい。

No.15 ダウランド「巡礼の慰め1612」//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」、今日で15回目です。今年はジョン・ダウランドの「第一リュート歌曲集」が出版されてちょうど400年目。本年度のクリスタルチャペルシリーズ前期3回はルネサンスリュート音楽の最高峰ダウランドの作品を様々の形でプログラミングして参りました。
 当時最高のリュート奏者でありながらも、念願のエリザベス女王付演奏家の地位を得られず、人生の大半、ヨーロッパを放浪していたダウランド。晩年故国に戻った彼は、1612年に出版された最終歌曲集を「巡礼の慰め」と名づけました。時代はルネサンスからバロックへ。ダウランドは新しい時代の響きを感じつつ自らの人生を振り返っていたのです。
 第四歌曲集「巡礼の慰め」は21曲のリュート歌曲と巻末に添えられた1曲のリュートソロで構成されています。殆どは4声とリュートという典型的な形で書かれていますが、対話形式や、ソロから始まり合唱になる作品等、当時のイタリアの新しいスタイルの影響や様々な試みがみられます。そして最後に収められたソロ曲はダウランドの代表作「涙のパヴァーヌ」に基づくガリアルド。これもダウランド自らへの回想の表われなのでしょうか。
 本日は第一部にリュートソロとリュートソング、第二部は合唱とリュートでルネサンスからバロックへ移り変わるイギリスの響きをお楽しみ下さい。

No.16 フランスバロックのリュート音楽//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」は今回で16回目を数えます。今夜はフランスのバロック音楽です。
 17世紀初頭、フランスのリュート奏者たちはルネサンスからバロックへの移行期に「表現の豊かさ」と「新しい響き」を模索しておりました。彼等は低音弦を増やし、様々な調弦を試し、最終的に11コースの「ニ短調」調弦の楽器を作りあげました。本日演奏するデュフォーやムートンといった作曲家の組曲も、フレンチ・バロック・リュートの為に作曲されており、ルバートや装飾音を多用する表情豊かな典型的なフランスバロックリュート音楽といえるでしょう。
 また、奏者に最大原の自由さを与える拍子記号と小節線のないプレリュードや、フランスバロック音楽には不可欠な「スティル・ブリゼ」と呼ばれる和音を分けて弾く「分散様式」もこの時代のリュート奏法から生まれ、クラブサン(チェンバロ)音楽等に多大な影響も与えました。
 歌曲に於いては、イタリア同様、フランスの歌曲伴奏にもリュートはたいそう好まれ、エール・ド・クール(宮廷の歌)と呼ばれるフランス独自のリュート歌曲が当時のすぐれた作曲家たちにより数多く生みだされました。また、オペラやカンタータに於いてもアーチリュートやテオルボといった数々のリュートが通奏低音楽器として盛んに用いられました。
 それでは今宵、歌とリュートによる、時にはせつなく、時にはきらびやかなフランスのバロックリュート音楽をお聴き下さい。

No.17 古きよきイギリスの愛の歌//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」も今宵で17回目を数えます。今回は「古きよきイギリスの愛の歌」と題して、ルネッサンス、バロック、そしてマザー・グースの唄をお聴きいただきます。
 イギリス音楽全般の特徴としては旋律が大変平易で美しい事があげられるでしょう。グリーンスリーブスに代表されるイギリスのはやり唄はメロディーの親しみやすさから、世界中で歌われています。リュート音楽の最高峰ダウランドの歌曲もメロディーの美しさ故に器楽曲にも多数アレンジされています。イギリスのオルフェウスと呼ばれたパーセルは定型伴奏(グラウンド)にのせた魅力的なメロディーを次々作りだしました。マザー・グースの唄は英語圏でお母さんが子供たちに唄ってあげる伝承童謡、やさしさに満ちたこれらの旋律も広く人々に愛されています。
 今日は5台の楽器を使います。まず7コースのリュート。13本のナイロン弦(当時はガット弦)がはってあるこのリュートは典型的なルネサンスリュートです。フィーデルは中世からルネサンスにかけて愛好された擦弦楽器で、古い絵画では天使がよく演奏しています。次にオルファリオン。リュートと同じ調弦なのですが、金属の弦がはってありリュートの代替楽器として愛好されました。そしてマザー・グースではギターを使います。今のギターより少し小さな楽器ですが、19世紀にはこのサイズの楽器が一般的でした。リュートと同様、今の楽器より音量は少ないのですが、響きの良い会場では微妙なニュアンスを表現する事ができます。パーセルでは14コースのアーチリュートを使います。バロック時代に独奏、伴奏と幅広く使われたもっとも音域の広いリュートです。
 それでは今宵、国境と時代を超えて、今なお世界中の人々に愛される「古きよきイギリスの愛の歌」の数々をお楽しみ下さい。

No.18 イタリバロックのリュート音楽//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」は今回で18回目、今夜は「イタリアバロックのリュート音楽」です。
 16世紀から17世紀、時代はルネサンスよりバロックへと移りつつありました。均整のとれたルネサンスの世界感は、神を頂点とする体系からなりたち、人々は調和のとれた世界を求め、楽しんでいました。しかし17世妃、神をも恐れぬ人間は、新しい刺激を求めてバロックの世界を作り出していくのです。人は自らの気持ちを素直に、露骨に、そして大胆に表し始めたのです。
 歌曲に於いては、言葉と音との関係がより重視され、言葉よりも対位法的手法を大事にせざるを得ないルネサンスのポリフォニ一(多声音楽)に代わり、言葉の抑揚や意味、そして感情の表出を重んじる伴奏付き単旋律であるモノディーという様式が登場してきました。そこには言葉と音との結び付き、音楽とは言葉とリズムであり、楽音はそれらをより効果的に助けるものであり、音楽を通じていかに正しく言葉の意味を伝えるかが実践されました。
 そして、基本的には声楽曲よりの発展物といえる器楽曲はバロック期において新たな方向を模索しなくてはなりませんでした。しかし、一見するとマイナス要素と考えられるこの事が、トッカータに代表される17世紀の器楽作品を生み出し、後の純粋な器楽曲の発展へつながる結果となりました。
 それでは今宵、歌と2台のアーチリュートによる、華やかなイタリアバロックリュート音楽をお聴き下さい。

No.19 ダウランドとヴァイス//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」は今回で19回目、早いもので皆様のお陰を持ちまして4年目を迎えました。今宵はリュートソロリサイタルです。ルネサンスリュート音楽の最高峰ジョン・ダウランド、そしてバロックリュート音楽の最高峰であるレオポルド・シルヴィオス・ヴァイスの作品をお聴き下さい。
 当時随一の演奏家とされながらも念願のエリザベス女王付きリュート奏者の職につけない失望感を抱き、ヨーロッパを放浪したダウランド。彼の人生と重なるメランコリーな作風は、16世紀末に流行った瞑想的風潮と同調し、多くの人々の心を捕えました。今夜はダウランドの深い響きを表現したく、通常のリュートより一音低いF-リュートで演奏致します。
 600曲に近い作品を残したヴァイスの作品の多くは典型的な後期バロック様式で書かれ、しばしばバッハの作品と比較されます。楽器の特性をあまり考慮しないバッハの作品に比べて、当然の事ながらヴァイスのリュート曲からは撥弦楽器特有の美しさが感じられます。バロック時代のリュートはルネサンスリュートの和声的な調弦から、音楽様式の様変わりに伴い、対位法的な調弦へと変化し、低音側に音域を広げて行きました。今夜のヴァイスの作品は11コース、20本の弦が張られた楽器で演奏します。
 ルネサンスからバロック時代に隆盛を極めたリュート音楽。そしておのおのの時代の最後を飾るにふさわしい作品を生み出したダウランドとヴァイス。それぞれの時代の人々に愛され、多くの音楽家に多大な影響をも与えました。
 それでは、リュート音楽を語る時のみならず、ルネサンスとバロック音楽に於ても最も重用で魅力的なこの二人の作品をお楽しみ下さい。

No.20 ダウランドからパーセルへ//演奏曲目

 当時随一のリュート音楽家であったダウランドは存命中に4巻の歌曲集を出版しています。1997年に出版された第一歌曲集は再版を重ねる程好評で、リュート歌曲のお手本として多くの作曲家に影響を与えました。一巻目の好評に気を良くしたのか1600年に刊行された第二歌曲集は最も内容の充実した歌曲集になっています。本日演奏致しますのリュート歌曲はすべて第二巻より選びました。「流れよわが涙」に代表されるダウランドのメランコリーをお楽し下さい。
 幼いころから神童とさわがれていたパーセルは36年の短い生涯に800曲もの作品を作り出しました。特に注目すべきジャンルは劇場音楽と呼ぱれるもので、「オペラ」「セミ・オペラ」「付随音楽」といった舞台劇場に関連する音楽で、声楽曲における英語の表現能力にとりわけ彼の天才ぶりを見いだすことが出来ます。ウェストミンスター寺院のオルガニストでもあったパーセルはハープシコードの為の組曲や弦楽のためのファンタジア等多くの器楽作品も残していますが、残念ながらリュートの為の独奏作品は作曲しませんでした。今日演奏するソロ曲、グラウンドはハープシコードの為に、シャコンヌは「アーサー王」の中の管弦楽舞曲からのアレンジです。パーセルは、反復される定形パターンの上に変奏を重ねて行くというグラウンドやシャコンヌをたいそう好みました。この形式は音楽的に形が伴いやすい反面、ともすればワン・パターンに陥りやすい形式なのですが、パーセルの才能はルールを侵さずに最大限の自由さと美しさを旋律に与えました。
 それでは今宵、英語の響きの魅力を最大限に生かした二人の音楽を通して、ルネサンスからバロックへのイギリス音楽の流れをリュートの調べと共にお楽しみ下さい。

No.21 イングリッシュ・バラード「グリーンスリーブス」//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」は今回で21回目を迎えました。今宵は「グリーンスリーブス」と題しイギリスのバラードの数々をお聴き頂きます。
 今夜のゲストは、イギリス歌曲の第一人者の平井満美子さんとオランダ在住で世界的に活躍しているリュート奏者、野入志津子さんです。
 リュート音楽の黄金時代、そしてはやり歌の宝庫であるエリザベス朝は、経済、文化、芸術と、総てに花開いた時代であり、人々はうれしいにつけ、悲しいにつけ、自らの気持ちをはやり歌に託し、リュートを奏でました。
 イギリスのバラードはそのメロディーの美しさと親しみやすさゆえに、時と国境、そして言葉の壁をも越えて世界中に広まって行きました。また、自然発生的に生まれたバラードの旋律の多くは、エリザベス朝の作曲家にもたいそう魅力的であり、芸術的な作品の創造への起爆剤ともなりました。当時のリュートソロ、そして大変流行したリュート・デュエットにもはやり歌の旋律を基とした曲が数多く見うけられます。
 それでは今宵、ルネサンスとバロック時代の繁栄の後、しばしの眠りにつき今世紀に再び目覚めた「リュートとオルファリオン」の響き、そして時代と国を越え、今なお新鮮で多くの人々に愛される「エリザベス朝のはやり歌」をお楽しみ下さい。

No.22 イタリア、フランスのバロック//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」は今回で22回目を迎えました。今宵は歌とリュートに加えバロック・ヴァイオリンとチェンバロによる「フランス、イタリアのバロック」。ゲストはおなじみのソプラノの平井満美子に加え、スペシャルゲストとしてイタリア在住で世界的に活躍しているチェンバロ奏者、ミッチ・メイヤーソンとヴァイオリン奏者のロバート・ブラウンです。 リュート(撥弦楽器)、ヴァイオリン(擦弦楽器)、チェンバロ(鍵盤楽器)、そして歌による響きの組み合わせは無限の可能性と広がりをバロック時代に生み出しました。
 今宵、17、8世紀の宮廷音楽を中心とした華麗で優雅な響きの数々を、歌と当時ヨーロッパで最も愛好された楽器の調べでお楽しみ下さい。

No.23 フランスバロックの宮廷音楽//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」は今回で23回目を数えます。今夜は歌とリュート、ヴィオラ・ダ・ガンバによる「フランスの宮廷バロック音楽」です。
 フランスバロックでも歌曲伴奏にリュートはたいそう好まれ、エール・ド・クール(宮廷の歌)と呼ばれるフランス独自のリュート歌曲が当時のすぐれた作曲家たちにより数多く生みだされました。また、オペラやカンタータに於いてもアーチリュートやテオルボといった数々のリュートが通奏低音楽器として盛んに用いられました。生涯の大部分を宮廷に仕えたマラン・マレは5巻のヴィオル曲集 (Pieces de violes) を作曲しており1686年から1725年にかけて出版されたこれらの作品はマレの代表作であると共にフランス・バロック・ヴィオル音楽の中心的存在でもあります。
 ヴィゼはルイ14世に仕えたギター、リュートの名演奏者ですがヴェルサイユでは一目置かれる音楽家で国王のお気に入りでもありました。ド・マシもルイ14世おかかえのヴィオル奏者ですがその生涯についてはあまり知られていません。1685年パリで出版されたヴィオル曲集には8つの組曲が含まれています。フランスバロックの作曲家、理論家、そして教師として高い評価を得ていたモンテクレールは20曲のフランス語カンタータと4曲のイタリア語カンタータを残し多くの作曲家に影響を与えました。
 それでは今宵、しばしクリスタルチャペルに響く華麗なるヴェルサイユの音楽に身をお任せ下さい。

No.24 夢次元の調べ「キャロルを集めて」//演奏曲目

 「佐野健二のリュート音楽の楽しみ」は今回で24回目を数えます。今夜は「夢次元の調べ、キャロルを集めて」と題し、イングリッシュ・キャロル、フォークソング、そしてイギリス・バロックの巨匠ヘンリー・パーセルの作品を、佐野俊郎作の夢次元彫刻灯の幻想的な明かりのセッティングで演奏します。
 キャロル“Carol”とは賛美歌の意味。賛美歌とは神を賛える歌 。16世紀イギリスの人々は、はやり歌の旋律にのせて救い主の誕生を祝いました。イギリスのはやり歌は、旋律の美しさと普遍性ゆえに、世界中で親しまれています。これらのメロディーには、地域や時代差で色々な歌詞を見い出すことができます。そして、イギリスの人々は『キャロル Carol』の旋律に、ごく自然にはやり歌を使いました。音楽とキリスト教が人々の生活に根差していることの現われでもあるでしょう。
 イギリス・バロックの大作曲家ヘンリー・パーセルはイタリアからイギリスにもたらされた音楽に影響をうけながらもイギリス音楽の伝統である旋律のうつくしさ、英語の響きを音楽にのせる卓越した手腕等により独自の世界を作り上げました。彼は、反復される定形パターンの上に変奏を重ねて行くというグラウンドやシャコンヌをたいそう好み、ともすれば単調になりやすいこの形式においてパーセルの才能はメロディーの自由さと英語の美しさを旋律に与えました。
 それでは今宵現世を離れたつかの間のひとときを夢次元の明かりの中、時空を超え我々を魅了するイギリスのキャロル、はやり歌、パーセルでお楽しみ下さい。


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